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仔馬への虐待動画が波紋——「躾」と「虐待」の境界線はどこか │

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2026年3月、北海道の競走馬生産牧場で撮影された仔馬への暴力行為の動画がSNS上で拡散され、大きな波紋を広げています。牧場側は「しつけ」と説明しましたが、元騎手や五輪馬術選手をはじめとする業界関係者からは、一様に批判の声が上がりました。

この記事では、事件の経緯と業界の反応を時系列で整理するとともに、動物愛護管理法における「虐待」の定義、そして仔馬の正しいハンドリングや馴致(じゅんち)の基本まで、乗馬メディアの視点から解説します。

※本記事は2026年3月21日時点の報道情報に基づいています。事件は進行中であり、今後の捜査や調査の結果により、事実関係が変わる可能性があります。

SNSで拡散された仔馬への暴力動画——何が起きたのか

2026年3月中旬、北海道日高町にある競走馬生産牧場の厩舎(きゅうしゃ)内で撮影された動画が、X(旧Twitter)上で急速に拡散されました。ここでは、報道各社の情報をもとに事件の経緯を整理します。

動画に映っていた行為の概要

草をはむ馬

※画像はイメージで本件とは関係がございません

拡散された動画は約3分間にわたるもので、YouTubeチャンネル「仔馬カメラ」のライブ配信から切り抜かれたものとされています。J-CASTニュースの報道によると、動画には厩務員(きゅうむいん)とみられる男性が、生後約20日のサラブレッドの仔馬に対して声を荒げる様子が映っていたとされています。地面に押さえつける、上からまたがる、殴打するような動作を繰り返す場面も確認されています。

映像の衝撃は大きく、SNS上では「虐待ではないか」という批判の声が瞬く間に広がりました。

牧場側の主張——「しつけ」という説明

問題の牧場は、2004年の安田記念をツルマルボーイで制するなど、競走馬生産の実績を持つ北海道日高町の有限会社浜本牧場です。

牧場側は当初、公式Xアカウントで「人の安全第一」「参りましたとなるまで許さない」と主張し、動画の行為を「しつけ」として正当化する姿勢を見せました。また、批判に対して挑発的な投稿を行ったことが複数のメディアで報じられています。

批判の拡大と牧場の謝罪

牧場側の強硬な姿勢は批判をさらに加速させました。3月17日頃、牧場主である浜本雅俊氏の公式Xアカウントは削除され、同日、YouTubeチャンネル「仔馬カメラ」を通じて謝罪文が公開されました。

謝罪文では「不適切な行為により、大切な馬たちに恐怖とストレスを与えてしまいました」「躾として正当化できるものではない」といった趣旨の記述がなされています。しかし、事前の挑発的な投稿との落差から、「本気の謝罪とは思えない」という声も少なくありません。

業界関係者の反応——元騎手・五輪選手・他牧場の声

今回の動画に対しては、馬に携わる専門家たちからも厳しい声が相次いでいます。ここでは、報道で確認できる主な反応を紹介します。

元JRA騎手・和田翼氏の見解

元JRA騎手の和田翼氏は、Xで「本当にショックを受けました」と投稿し、「どんな理由があったとしても、あのような扱いはあってはいけないと思います」と述べました。さらに「馬を扱う仕事に関わる以上、まず理解しないといけないのは人間の側です」と指摘し、馬に携わる者の姿勢を問いかけています。

馬場馬術・林伸伍選手(東京五輪出場)のコメント

東京オリンピックの馬場馬術(ばばばじゅつ)に出場した林伸伍選手は、「自分の人生の中で馬が人間に危害を加えようとして向かってきたと感じたことは一度もない」と語っています。馬と長年向き合ってきた馬術選手の言葉として、重みのあるコメントです。

他の生産牧場・団体の反応

他の生産牧場からも、動画の行為を明確に否定する声が上がっています。ある牧場関係者は「あの扱いは行いません。仔馬は母馬のそばで安心させながら人に慣らすのが普通です」と述べ、業界内でも一般的な方法ではないことを強調しました。

また、日本乗馬普及協会は「方法と手段が全く理解できない」との見解を示しています。

紗栄子氏による仔馬の保護と刑事告発の動き

動画の拡散後、事態は法的な対応や著名人の介入といった新たな展開を見せています。

紗栄子氏が親子馬を購入・保護

タレントで実業家の紗栄子氏は、動画拡散直後に浜本牧場を訪れ、問題の仔馬とその母馬を保護目的で購入しました。自身のInstagramで「拡散されていた動画に映っていた1組の親子馬を、保護を目的として購入いたしました」と報告しています。

紗栄子氏は栃木県那須で「那須ファームビレッジ」を経営しており、以前から引退馬や保護馬の受け入れ活動を行っています。保護された親子馬は同施設に移され、健康状態は良好とのことです。

NGO「LIA」による刑事告発

動物・環境保護を掲げるNGO「LIA(Life Investigation Agency)」は、2026年3月17日、浜本牧場における仔馬への行為が動物愛護管理法に違反するとして、北海道警察本部長宛てに刑事告発状を提出しました。LIAは2010年の設立以来、動物や環境に対する犯罪について3,700件以上の刑事告発実績を持つ団体です。

JRA・北海道の対応

JRA(日本中央競馬会)は本件について「個別のコメントは差し控える」としたうえで、若馬の育成に関する一般的な考え方として「力で屈服させるのではなく、要求を理解させ、従順になるよう教育することが重要」と述べました。これはあくまで一般的な育成指針についての言及であり、特定の牧場に対する見解ではありません。

北海道当局も「関係機関と情報を集めており、対応を検討しています」とコメントしており、今後の調査の進展が注目されます。

「躾」と「虐待」の境界線——動物愛護管理法の観点から

今回の事件では「これは躾なのか、虐待なのか」という議論がSNSを中心に広がりました。ここでは、法律の観点から両者の境界線を整理します。

動物愛護管理法における馬の位置づけ

動物愛護管理法(正式名称:動物の愛護及び管理に関する法律)の第44条第4項では、「愛護動物」が定義されています。具体的には、牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと、あひるの11種が列挙されており、馬は明確に愛護動物に含まれています。

つまり、馬に対して「みだりに」殺傷したり、虐待したりする行為は、法律上の処罰対象となります。

虐待に該当する行為と罰則

動物愛護管理法における罰則は、行為の種類によって大きく2段階に分かれています。2019年の法改正で罰則が大幅に強化されました。

行為の分類

具体的な行為

罰則(2019年改正後)

殺傷(第44条第1項)

愛護動物をみだりに殺し、又は傷つける行為

5年以下の拘禁刑(旧・懲役刑)又は500万円以下の罰金

虐待(第44条第2項)

暴行を加える、適切な飼養を怠るなどの行為

1年以下の拘禁刑(旧・懲役刑)又は100万円以下の罰金

遺棄(第44条第3項)

愛護動物を遺棄する行為

1年以下の拘禁刑(旧・懲役刑)又は100万円以下の罰金

なお、「拘禁刑」は2025年6月の刑法改正により、従来の「懲役刑」「禁錮刑」が一本化されたものです。

ポイントとなるのは「みだりに」という文言です。正当な理由なく、不必要な苦痛を与える行為が「虐待」に該当します。たとえ「しつけ」や「訓練」を目的としていても、その方法が社会通念上妥当な範囲を超えていれば、法律上の虐待と判断される可能性があります。

「産業動物」と「愛護動物」の法的な扱い

競走馬の生産・育成に携わる牧場では、馬は経済活動の一部として扱われる側面もあります。しかし、法律上は馬が「産業動物」として飼養されている場合でも、動物愛護管理法の対象外になるわけではありません。

  • 馬は動物愛護管理法で「愛護動物」に明記されている
  • 産業動物であっても、虐待に該当する行為は処罰対象となる
  • 農林水産省は「馬の飼養管理に関する指針」でアニマルウェルフェア(動物福祉)の基準を示している

「産業動物だから多少の荒い扱いは許される」という認識は、法的にも倫理的にも誤りです。

仔馬の正しいハンドリングと馴致(じゅんち)の基本

では、仔馬に対する正しい扱い方とはどのようなものでしょうか。ここでは、馬の育成や馴致の現場で実際に行われている方法を解説します。

馴致とは——馬が人間を信頼するプロセス

馴致(じゅんち)とは、馬が人間の存在や指示に慣れ、信頼関係を築いていくプロセスを指します。英語では「ブレーキング(breaking)」とも呼ばれますが、その本質は馬を「壊す」ことではなく、「人間と共に過ごすことを学ぶ」過程です。

馴致は馬の一生を左右する重要なステップです。仔馬の時期に人間との良好な関係を築けるかどうかが、その後の調教や騎乗のしやすさに直結します。

仔馬のハンドリングで大切な3つの原則

仔馬と母馬

※画像はイメージで本件とは関係がございません

JRA日高育成牧場の技術文書や乗馬クラブの解説などをもとに、仔馬のハンドリングにおける基本原則を整理します。

  1. 母馬のそばで安心させる:仔馬は母馬のそばにいるときに最も安心します。人間に慣れさせる作業は、母馬が近くにいる環境で行うのが基本です。無理に引き離すと、仔馬に強いストレスを与えます。
  2. 正の強化(ポジティブ・リインフォースメント)を使う:馬が正しい行動をとったときに、すぐに褒める(プレッシャーを解放する、声をかけるなど)ことで「こうすれば良いことがある」と学習させます。恐怖や痛みによる学習は、馬に長期的なトラウマを残す恐れがあります。
  3. 段階的に進める:触れる → 体全体をなでる → ホルター(無口)をつける → 引き馬をする、というように段階を踏んで進めます。一度に多くのことを求めず、馬のペースに合わせることが大切です。

項目

適切なハンドリング

不適切な扱い

環境

母馬のそばで安心できる場所

母馬から隔離した密室

学習方法

正しい行動を褒めて覚えさせる

恐怖や痛みで従わせる

ペース

馬の反応を見ながら段階的に

短期間で一気に従わせる

人間の態度

穏やかで一貫した対応

怒鳴る・叩くなどの威圧

目標

信頼関係の構築

服従・屈服

力で屈服させない——JRAの育成指針が示すもの

JRAは若馬の育成について、一般的な考え方として「力で屈服させるのではなく、要求を理解させ、従順になるよう教育することが重要」との見解を示しています。

これは、現代の馬の育成における基本的な考え方と一致するものです。馬は非常に記憶力が良く、恐怖体験を長期間にわたって覚えています。仔馬の時期に人間への恐怖を植え付けてしまうと、その後の調教が困難になるだけでなく、人間に対して防衛的な行動(蹴る、噛むなど)をとるようになるリスクが高まります。

つまり、「しつけ」と称した暴力的な扱いは、馬の安全管理という観点からも逆効果です。力で屈服させた馬は、表面的にはおとなしく見えても、内面では人間への不信感を抱えたままになります。

この問題から考える——馬と人の信頼関係のあり方

今回の事件は、一つの牧場の問題にとどまらず、馬に携わる業界全体に問いを投げかけています。

競馬・乗馬業界に求められる透明性

今回の動画が広く知れ渡ったきっかけは、牧場自身が設置していたライブカメラでした。本来は仔馬の誕生を見守るための配信が、結果として内部の実態を明らかにしたことになります。

馬の飼養環境や取り扱いについて、業界全体で透明性を高めていくことが求められています。具体的には以下のような取り組みが考えられます。

  • 飼養管理のガイドラインの周知と遵守
  • 第三者によるアニマルウェルフェアの監査制度の導入
  • 牧場スタッフへの教育・研修の充実
  • 問題が発生した際の通報・相談窓口の整備

馬に関わるすべての方が知っておくべきこと

乗馬を楽しむ方、競馬を応援する方、馬に関心を持つすべての方にとって、馬がどのように育てられ、扱われているかを知ることは大切です。

  • 馬は動物愛護管理法で保護される「愛護動物」であること
  • 「しつけ」と称しても、不必要な苦痛を与える行為は法律上の「虐待」に該当し得ること
  • 仔馬の馴致は、信頼関係の構築を基盤とするものであること
  • 虐待が疑われる場面を目撃した場合は、最寄りの警察署や動物愛護センターに通報できること

馬は人間にとってかけがえのないパートナーです。そのパートナーが安全で尊厳ある扱いを受けられる環境を、業界全体で守っていく必要があります。

まとめ

2026年3月に発生した仔馬への虐待が疑われる動画の拡散は、競馬・乗馬業界に大きな衝撃を与えました。本記事の要点を整理します。

  • 北海道日高町の浜本牧場で撮影された仔馬への暴力行為の動画がSNSで拡散された
  • 元JRA騎手や五輪馬術選手など、業界関係者から批判の声が相次いだ
  • タレントの紗栄子氏が親子馬を保護し、NGO「LIA」が動物愛護管理法違反で刑事告発を行った
  • 動物愛護管理法上、馬は「愛護動物」であり、虐待には1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科される
  • 仔馬の馴致は、暴力ではなく信頼関係の構築を基盤に、段階的に進めるのが正しい方法である

馬との関わり方を見つめ直すきっかけとして、この問題を一過性の炎上で終わらせず、業界全体の改善につなげていくことが大切ではないでしょうか。

※本記事の内容は一般的な情報です。実際の指導は、必ず資格を持ったインストラクターのもとで行ってください。
※動物虐待が疑われる場面を目撃した場合は、最寄りの警察署(110番)または各都道府県の動物愛護センターにご連絡ください。